イタリアのエミリア・ロマーニャ州の州都であるボローニャは、ヨーロッパ最古の総合大学といわれているボローニャ大学に代表される学生の都であると同時に、イタリア観光の交通の要にもなる都市です。
フィレンツェやヴェネツィア、ローマなどの超有名観光都市と比べると、観光名所の数やレベルでは太刀打ちできませんが、「旅の途中でちょっと立ち寄ってみる」にはとてもおすすめの町です。
イタリアの主要鉄道会社アリタリアが運営する高速電車「フレッチャ(Freccia)」専用の巨大な鉄道駅を有していることもあり、観光客やビジネスマンにとって非常に便利な場所に位置しています。
旅の移動途中にボローニャでひとまず一泊、といったケースも充分あり得るため、1日でコンパクトに見て回れるボローニャの観光コースをご紹介したいと思います。私が長いイタリア生活の中で地元の人たちから聞いた、知る人ぞ知る裏技的見どころも踏まえて解説していきます!
鉄道駅からすぐ!モンタニョーラ公園

モンタニョーラ公園入口の階段
鉄道駅から一番近くて絶好のインスタ映えスポットになり得るのが、モンタニョーラ公園(giardino della montagnola)入口にある巨大な階段です。美しい彫刻と白い石のおかげで華やかな印象になっているこの大階段は、昼間の青い空に良く映え、夜にはおしゃれで温かなランプに照らされて夕闇の町の中に幻想的に浮かび上がります。
上の写真を撮った日は残念ながら曇天だったため、イマイチ美しさが伝わらないかもしれませんが、実物の迫力は実際に足を運んで確かめていただきたいと思います。
この階段を登りきると、緑あふれる公園が広がっています。大きな噴水やベンチ、テーブルも備え付けられているので、暖かい季節には生ハムとチーズを買ってここで食べると、最高の気分でイタリア人的な日常を真似てみることができますよ。
モンタニョーラ公園の裏手には8月8日広場(Piazza dell'8 Agosto)があり、毎週金曜日と土曜日にとても大きなマーケットが開かれています。数えきれないほどの出店が並び、装飾品や日用雑貨のお店で溢れかえります。例えばレディースの靴下やパンツがひとつ50セントから購入できたりと、とても安価でショッピングが楽しめるため、毎週非常に込み合います。
靴や服、ドレスや毛皮に至るまでありとあらゆるものが売られていますが、正直なところクオリティーはあまり保証できません。マーケットの雰囲気を楽しむという目的で訪れてみると良いでしょう。長持ちすることを期待せず、安価で旅の間に身につけることのできる、ハイテンション気味な洋服を買ってみるのも良いですね。
人混みに紛れて買い物をすることになるので、スリやチカンには充分な注意が必要です。

8月8日広場前の彫刻
ボローニャの中心マッジョーレ広場へ行こう!
ボローニャ旧市街は、マッジョーレ広場(Piazza Maggiore)を中心にして広がっています。この広場はいわばボローニャの町の象徴なので、ボローニャに立ち寄るならば絶対に外してはいけないスポットです。日曜日や祝日には大道芸人などがパフォーマンスを行い、たくさんの人々で賑わっています。
日本のテレビ番組の「世界の果てまでイッテQ」でも、きちんと紹介こそされていないものの、何度もこの広場で撮影されたVTRが使用されています。
マッジョーレ広場を訪れる際には、まず広場入口にあるサラボルサ(Salaborsa)という大型図書館に入ってみることをおすすめします。近代と古代が融合したような独特の魅力を持つこの図書館は、図書館としての機能性ももちろん素晴らしいのですが、内装が非常に美しいため観光名所としても一見の価値ありです。
■図書館を超えた図書館サラボルサ

サラボルサ内部のメイン・ホール
メイン・ホール内にはバールも併設されており、勉強の息抜きに地元の学生たちがコーヒーを飲んだり、観光客が一息ついたりしています。イタリアン・クオリティの美味しいコーヒーがリーズナブルに味わえるのでおすすめです。
上の写真からも見て取れる通り、大きな吹き抜けの周りに2階、3階と図書館が広がっています。吹き抜けを取り囲んでいるスペースには雑誌や新聞などが置かれており、備え付けのテーブルで閲覧できるようになっています。
また、この図書館にある本の多くは、メイン・ホールに入って右奥にある入口から続いている図書スペースに納められています。日本人作家の小説などもイタリア語に翻訳されて貯蔵されていますので、興味がある方は地下1階にある外国人作家のコーナーへ足を運んでみてください。夏目漱石や芥川龍之介、三島由紀夫や吉本ばななに至るまで、かなりのラインナップがイタリア語に翻訳されて親しまれています。
館内全域で無料で利用できるWI-FIも完備されているので、腰を下ろしてゆっくり観光情報を再確認したいときなどにも便利です。
メイン・ホールの床はガラス張りになっており、地下に広がるローマ時代の遺跡を見渡せるように作られているのですが、残念ながら床の保存状態があまり良くないため、今ではほとんど下が見えません。傷や汚れで透明度がかなり落ちています。
遺跡に興味があるという人は、このガラス張りの床の下に降りることのできるガイド付きの地下ツアーもあるので、こちらに参加するのが良いでしょう。

メイン・ホールの床
■いわくつきのネプチューン広場
サラボルサの入り口にくっつくような形で、ネプチューンの噴水が設置されたネプチューン広場(Piazza Nettuno)があります。この広場は実質、マッジョーレ広場の一部だと言ってしまって差し支えないでしょう。2つの広場は繋がっているので、境目はハッキリ言ってわかりません。
このネプチューンの銅像にはちょっとした下世話な噂話があります。本当かどうかは極めて怪しいところですが、話のタネとして知っておくと面白いかもしれません。
その昔、この噴水と銅像の制作途中でローマ教会の偉い人からダメ出しが入り、「ネプチューン像の局部を小さくして目立たないようにしろ」と命令が下ったのだそうです。
それに反発心を覚えながらも命令に従わざるを得なかった彫刻家は、せめてもの抵抗と自身の意思の証として、この作品にあるトリックを仕込みました。
正面から見ればごくごく普通の男性像ですが、銅像の斜め後ろの石畳の中にある白い正方形のブロックの上に立って、左手前にネプチューンを眺めると視覚トリックが起こり、ある「大きなもの」が見えます。
初めてこの話を聞いたときに私は俄かには信じがたいと思いましたが、実際に視覚トリックを体験してみると納得せざるを得なくなります。
しかもよく考えてみれば、大昔の芸術家とは言えイタリア人のやることです。陽気で冗談が大好きで自己主張の強い彼らの国民性から考えると、このくらいのいたずらは極々自然なことのようにも思えてきます。たまたまこの作品に仕込まれたいたずらが、数百年の時を超えて後世に残っている、というだけなのかも知れません。
ちなみにこのネプチューンの噴水は、ボローニャに住む人にとっては待ち合わせ場所として活躍しています。日本で言う「渋谷のハチ公前」的な感じですね。

ネプチューンの噴水の夜の顔(正面)
■偶然か必然か?糸電話ならぬ「壁電話」
マッジョーレ広場を挟んで、ボローニャで一番大きく一番重要な教会であるサン・ペトローニオ(Basilica di San Petronio)の向かい辺りにある一角にも、とあるトリックが隠れて存在しています。
下の写真にあるように、一見なんてことはない建物の一部なのですが、音響の不思議を使って糸電話の要領で遊ぶことができるのです。これは特に子供たちが喜ぶようなトリックです。

「壁電話」ができるスポット
写真からはアーチ形の天井の四つ角にそれぞれ彫刻が乗っかっているのが見て取れると思います。この四つ角のうち、対角線上にある二つの角に向かってそれぞれ二人の人間が背中を相手に向けて立ち、壁へ向かって小さく話しかけます。するとかなりハッキリと、相手の声が壁の中から聞こえてきます。
私は専門家ではないのではっきりしたメカニズムはわかりませんが、アーチ状に作られた天井と正確な対角線がもたらす音響技術のようです。今も昔もイタリア人は遊び心たっぷりですね。
ここは昼夜問わず人通りの多い場所なので、壁に向かってボソボソと話をするのは若干気恥ずかしい気もしてしまいますが、せっかくですので一度は試してみていただきたい遊びです。
■マッジョーレ広場の主役サン・ペトローニオ

夕闇に佇むサン・ペトローニオ(右)
上の写真は日が落ちて間もない時刻のマッジョーレ広場です。右手に写っているのがボローニャのシンボル、サン・ペトローニオ(San Petronio)です。明らかな違和感が見て取れますよね。建物の基盤部分と、上に乗っかっている部分の建築様式のあからさまなギャップが与える視覚的な違和感です。この不自然なルックスに関しても、ボローニャには裏話が語り継がれて残っています。
サン・ペトローニオ建設計画が進んでいた当時、関係者たちは「どこよりも大きな教会を俺たちの手で造ってやろう!」と意気込んでいました。その勢いそのままに建設作業に取り掛かり、白とピンクがかった美しい色彩の石を積み上げて土台から入り口となる扉部分までが完成しました。
その時に、ネプチューンの銅像の時と同じように、大元であるカトリック教会の上層部からダメ出しが入りました。
「カトリックの総本山であるバチカンのサン・ピエトロ寺院よりも立派な教会を建造することは許されない」という理由で、サン・ペトローニオ建設の大幅な縮小が命じられました。
モチベーションをもぎ取られた建設関係者たちは、しぶしぶ命令に従い、残りの作業をやっつけ仕事で終わらせました。それが茶色く地味なルックスで上に乗っかっている部分です。
本当かどうか定かではありませんが、これがサン・ペトローニオに関するボローニャ人たちに通する知識です。それを踏まえて眺めてみると、当時の関係者たちの気持ちを見て取ることができて、より面白く見学することができるのではないでしょうか。
ちなみに私個人としては、マッジョーレ広場が最高に美しく輝くのは昼間よりも夜、日が落ちてからだと思います。オレンジ色の温かい光に照らされて、幻想的な魅力をまとったマッジョーレ広場は、色濃く記憶に刻み込まれます。
オペラの本場イタリアの中でも格式高く有名なボローニャ歌劇場

ボローニャ歌劇場正面
ボローニャは夜でも活気にあふれている町です。観光に行くならば早めに軽い夕飯を済ませて、ボローニャ歌劇場に足を運ぶことをおすすめします。公演は一般的に20時開演になります。
ボローニャ歌劇場はイタリアの中でもレベルの高い有名な歌劇場です。昔から世界的に活躍する名だたるオペラ歌手たちが出演し、耳の肥えたイタリアのオペラ・ファンたちを魅了してきました。近年では経済的に苦しくなり、経営難の噂もささやかれてはいますが、それでもボローニャ歌劇場の栄華はまだまだ続いています。
月に一度ほどのペースで、新しい公演が催されています。毎日やっているわけではないので、ホームページなどで公演日程と演目をチェックしてから行ってみましょう。(ホームページ:http://www.tcbo.it/)
ボローニャ歌劇場は、その建物自体にも文化財産としての価値があります。何百年も昔から人々がオペラ上演を楽しんでいたそのままの雰囲気の中で音楽を楽しむことができるというのは、日本では考えられない貴重な経験になります。不思議なことに、近代建築の歌劇場よりも歴史ある馬の蹄型の歌劇場の方が、音響効果も優れています。そのため、末席でも充分に公演を堪能することができますよ。
また、煌びやかな装飾に溢れ、イタリアの芸術の力がみなぎる歌劇場の美しい内装は、ため息が出るほどです。オペラ公演が行われていない日でも、歌劇場の内部を見学するだけのガイド付きツアーなどもあるので、ボローニャに訪れる方にはぜひ一度は足を運んでいただきたいスポットです。
もうひとつの「ボローニャと言えば」的存在のドゥエ・トッリ!

マッジョーレ広場前から見たドゥエ・トッリ
マッジョーレ広場からボローニャ歌劇場に向かって歩いていると、嫌でも目に飛び込んでくるのがもうひとつのボローニャのシンボルであるドゥエ・トッリ(Due Torri)です。ドゥエ・トッリとはイタリア語で「二本の塔」という意味です。
背丈の違う2つの塔のうち背の低い方は大きく傾いているのが特徴で、その傾斜度は実はピサの斜塔よりも大きいと言われています。見た目が地味な茶色なので、ピサの斜塔の方が有名になってしまったのでしょうね。
背の高い方の塔には日中に登ることもできます。わずかな入場料を支払ったら、ひたすら狭い階段を昇って行きます。頂上にたどり着くと、赤茶色のレンガの屋根が広がるボローニャの町を一望することができます。ただし、帰り道には両脚がわなわな言い出すほど過酷な道のりなので、これは体力に自信のある人だけにおすすめしたい観光スポットです。
このドゥエ・トッリ、クリスマス・シーズンになると電飾を纏って輝きます。その様がとても美しいので、ボローニャ旅行は11月から1月の間でもおすすめです。

クリスマス・シーズンのドゥエ・トッリ
まとめ
まだまだ他にもボローニャには見どころがたくさんあります。歴史好きには興味深いサント・ステファノ教会(Chiesa di Santo Stefono)や、ピクニックに最適なマルゲリータ公園(Giardini Margherita)、ボローニャの丘の上に浮かび上がる美しい姿が印象的なサン・ルカ教会(San Luca)などなど。
また、「美食の町」としても有名なボローニャでは食い倒れツアーもマストで経験していただきたいところです。ティラミスやズッパ・イングレーゼなど、ボローニャ発祥と言われているスイーツも数々ありますよ。
意外と広くは知られていない、マイナーだけれど独特の魅力あふれる町ボローニャを、ぜひ一度訪れてみてくださいね。
ヨーロッパ在住歴13年の経験を活かしてイタリア、スイス、ドイツ、フランスのちょっとディープな観光情報をお届けします!