【中国杭州郊外エコ・ファーム】無農薬野菜の国内配達、自然食レストランやサマー・キャンプも

【中国杭州郊外エコ・ファーム】無農薬野菜の国内配達、自然食レストランやサマー・キャンプも

中国と聞くと真っ先に「食の安全問題」が思い浮かぶ方も多いかと思います。しかし、広い中国大陸にはそんな現状を打破しようと、地道な努力をしている人々もいるのです。一人の中国人が、自分の不動産を売って始めたエコ・ファーム。完全なエコ建築を実現した、彼の友人であるアーキテクト。中国杭州の田舎には、新しい風が吹いています。


中国随一の文化都市・杭州。日本語読みでは広州と読み方が同じなのでよく間違われますが、中国語では「ハンジョウ(Hangzhou)」と読みます。中国でいわずと知れた緑茶・龍井茶の生産地として名を馳せており、都市部から15分も車を走らせれば茶畑と美しい山々が広がります。世界遺産に登録された西湖(Xihu)のある都市としても有名です。

杭州から西に100キロほど車を走らせたところにある、临安双庙村。見渡す限り緑の山々、竹林、柔らかな草っ原が広がるにこの小さな村に、太阳公社(英語名:The Sun Commune)というエコ・ファームがあります。

2014年3月に始まったばかりの小さなエコ・ファームですが、無農薬栽培の農園、麦畑、フリー・レンジ(放し飼い)の家畜、周辺の山から集めた自然の材料のみを使用した建物作りなど、何から何まで徹底した環境に優しいエコ・ファームとして各方面から注目を集めています。

太阳公社の始まり

度々食品安全スキャンダルが明るみになる中国。状況を改善すべく、自分で何か行動を起こしたいと考えていたのが、太阳公社の設立者の一人である陳氏。彼はある日一念発起して、自身の所有する不動産を売却し、そのお金で地方にエコ・ファームを作ることを決意します。

ロケーション決め

陳氏がまず最初にしたは、エコ・ファームの候補地探し。挙げた条件は4つありました。山に近く、それほど傾斜の大きすぎない場所であること、汚染されていない綺麗な水が引けること、汚染されていない土であること、そして杭州から遠すぎないこと。

候補地探しは1年以上に及びました。国内100箇所以上の農村への調査はもとより、オーストラリア、日本、台湾など海外にまで赴き無農薬農業の視察・研究を重ねます。そんな中強力な候補地としてに浮上したのが、人口500人あまりの小さな村、双庙村でした。周囲を山に囲い込まれ孤立した環境にあり、小規模農業に適していること、そして農村の人々の謙虚な姿勢と、質素ながらもおもてなしの精神を大事にする文化が決めてになったそうです。

交渉

次なるミッションは、双庙村の住民へのビジネスプランの説明・交渉でした。現存の農耕地を完全な無農薬農園へと再開拓すること、村を新たな共同体、コミューン(生活基盤を共にしながら、一人一人が役割を持ちつつ機能するありかた)へと移行させることなどを農民に理解・同意してもらい、移行後の収入を保証した上で土地の借地権を取得。

習主席が2013年に表明した「美丽乡村(meili xiangcun、美しい地方)」(地方活性化を推進するキャンペーン)も手伝って、政府が高速道路から村に続く道路の建設・整備を買って出るなど、国も後ろ盾となってプロジェクトは進められました。

美しきエコ建築の真髄

太阳公社を語るうえで外せないのが、農園内に点在する美しい建築物。農村をダサいと思っている方は必見です。ここにはアートが溢れています。実は、太阳公社のアーキテクトを任されたのは筆者の義兄。前述の設立者、陳氏と友人関係だったのが縁でプロジェクトの話をもらったそうです。

中国はこんな風に、起業するにもビジネスパートナーを探すにしても、知り合いが集まって成り立ってしまうからすごいです。気心の知れた者同士で仕事ができるのもいいですね。

豚舎

プロジェクトが始動してからまず着手したのが、豚舎の建設でした。この豚舎、そんじょそこらの田舎の豚舎とは訳が違います。まず、建設に使われたのは村の周囲の小川や竹林から集められた丸石、木材、竹とわらのみ。耕作地によくないからという理由で、土台すらありません。完全なエコ建築物なのです。

その次にすごいのが、建築の容易さ。最初に10本の支柱を立て、そこにひたすら竹をつなげ、その上にわらぶき屋根を乗せただけという、大変ナチュラルでシンプルな構造。たった5、6人の専門業者が取り掛かって2週間で完成したとか。

わらぶき屋根は雨をしのぐことはもちろん、わらそのものが大変通気性の良い素材なので、 雨で濡れても下方から乾いていくことで、腐りにくいという長所もあります。昔の人の知恵は本当にすごいですね。中国が産業建設の時代に入ってから、このような建設手法は廃れる一方ですが、物事がそれほど変わっていない地方の奥地ではまだ自然の建築材料を使う技術はまだまだ健在なんだそうです。

建設中の豚舎の様子。ピラミッド型の屋根がお洒落です。

豚舎内の様子。餌やりの時間です。一頭一頭が大きくてものすごい迫力でした。

豚舎自体は300平方メートルほどの広さで、豚たちが動き回ることができる放し飼いのスペースは3,000平方メートルほど。水遊び用にプールもあります。お食事後のお昼寝時間にはジャズが流れていました。贅沢ですね!

豚舎の完成後、鶏小屋、そして村民が休憩用に使うパビリオンも建てられました。3つの建物は同じ手法で作られましたが、サイズも形も微妙に違います。豚舎は地面に立っており土地とブレンドするイメージ、 鶏小屋は高床式で、土台は木材と竹、屋根は竹のみでできています。パビリオンは開放感のある屋外式で、一段高い壇の上に建てられました。

パビリオン。

村民の方がお茶休憩用に使っています。風通しが良く、日よけ対策もバッチリです。

施設と宅配サービス

太阳公社は全長約3キロほどの山に囲まれた低地にあり、双庙村内に施設が点在しています。入り口からすぐのところに事務所とレストラン(これは以前からあった建物を改装してものを利用)、その向かいにはヤギの飼育場、トラクターを少し走らせたところに豚舎、そして一番奥にパビリオンと鶏小屋があります。

最近はサマー・ウィンターキャンプ用の宿泊施設と自然学校も増設されました。3日間のキャンプの対象年齢は7〜15歳、費用は2300元/一名ほどだそうです(2017年11月現在)。

太阳公社の全景図。まだまだ開発中です。

太阳公社で育てている野菜や米、家畜は卸売業者に販売されることはありません。太阳公社の会員になることで、自宅に直接旬の生産物を届けてくれるシステムです。会員費は1年30000元(2017年11月現在)で、現在は定員いっぱいなんだとか。

筆者も一度、義実家に宅配が来たのを見たことがありますが、米、豚肉、鴨肉、ものすごい種類の野菜が箱に溢れんばかりに入っていました。それぞれに生産者の生き生きとした笑顔の写真とメッセージのシールが貼られていて、感動したのを覚えています。

会員にはなれなくても、最近からオンラインショップで生産品の購入が可能になりました。ショップのウェブサイトはこちらから。英語名がいつのまにかSun Cityになっていますが、そこは中国あるあるでご愛嬌。

パビリオンから見下ろした農園。

オフィス建物前に大量に干されていた麦粒。これ、後で全部拾い集めるんでしょうか。。。

てんとう虫がイメージ・キャラクターです。奥の建物はレストランです。壁にたくさん貼ってあるのは、子供たちのはち切れんばかりの笑顔の写真。

レストランでいただいたお食事。全て太阳公社で採れた食材です。

こちらは米びつ。

ため池の向こうに見えるのが鶏小屋。この日は門に鍵かかかっており中には入れませんでした。

これからの中国に思いを馳せて

社会背景

杭州を何度も訪れている筆者ですが、最初に驚いたことは、杭州へ移り住んできた地方出身者の数でした。レストランのウェイター、タクシー運転手、掃除屋、スーパーのレジ、宅配便の配達員、百貨店の販売員、とにかくどこに行っても出会うのは非・杭州人ばかりなのです。

いわゆるブルー・カラーの肉体労働、底辺の仕事は地方出身者が徹底的に担い、杭州の中流〜富裕層はコネを駆使した不動産投資や起業ビジネスで余裕のある生活をしている事実に、そしてその貧富の差に、ものすごい衝撃を受けたのを覚えています。

そして一概には言えませんが、中国の都市部に住む人たちは田舎出身に人、また田舎暮らしの人と交流したがらない傾向にあります。戸籍がものをいう現実はまだまだ現実で、出身地で人生が決まってしまうというのも強ち嘘ではないのです。

急激な過疎化が進む中国では、2000〜2010年にかけて100万もの農村が姿を消したと言われてます。これは、1日につき300もの農村が無くなっている計算です。太阳公社のある浙江省でも、現存している農村はたった3万ほど。10年後に存続しているかも分からないところがほとんどなんだそうです。

都市部の人口はとどまることなく膨れ上がる一方。食の安全が繰り返し脅かされ、空気汚染などの環境問題に頭を悩ませる中で、田舎暮らしと無農薬農業に興味を持つようになる人々も増えてきています。

建築業界にも同様で、有能なアーキテクトの多くが大金ばかりが動く大都市のプロジェクトに嫌気が差し、次なる未開拓分野として地方の奥地に目を向け始め、自然回帰のブームの兆しが見えつつあります。そのような背景もあって、地方再生は中国のホット・トピックになりつつあるのです。

願い

太阳公社の願いは、都市部の人々に農園を訪れてもらい、自分たちが口にする米や野菜、家畜を育てている人達の暮らしぶりを知ってもらうこと。そして地方に新しい命を吹き込み、若者や観光客に農村を魅力的な場所と思ってもらうことです。

形あるものはいつかなくなる、建物の非永久性を理解してもらうこと。そして、いくら開発が進んだ世界に住んでいるとしても、人間は自然に依存しているということを思い出してもらうこと。自然の材料を用いて生活の役に立つものを作り上げることは可能だと知ってもらうこと。それが太阳公社の使命なのです。

サマー・キャンプで太阳公社を訪れた子供たちの制作品。よく見ると、アトムやウルトラマンもいます。

太阳公社はメディアへの露出も積極的に行っていて、中国随一のソーシャル・メディア、微博や微信のアカウントから随時情報発信しています。

Architects Seize on Potential in China’s Countryside

https://www.nytimes.com/2016/06/18/arts/design/architects-see-potential-in-chinas-countryside.html

Rural areas are emerging as a frontier for designers as urban residents tire of environmental crises and food scares and become interested in organic lifestyles.

ニューヨークタイムズに取り上げられたことも。この記事、残念ながら中国では観覧不可なんだそうです。

杭州を訪れる度に、都市部の開発のスピードには度肝を抜かれます。古い建物はどんどん取り壊され、跡地には次々に複合商業施設が建てられています。人々の生活は便利になる一方ですが、同じくらいのスピードで古き良き中国も失われているのです。

太阳公社は、作り手の思いがこれでもかとストレートに伝わってくる場所です。目まぐるしい発展を遂げる中国で、まだこんなにホッとできる場所があったのかと感銘を受けました。どうかこれから、太阳公社と同じ志を持つ農村が増えますように。そう願ってやみません。

中国の生活でふと深呼吸をしてみたくなったら、ぜひ訪れてみてください。

この記事のライター

ニュージーランドとシンガポールでの生活を経て2009年よりシドニーに居住しています。6・3・1歳の子育て中です。

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